恋の罠 *- 先輩の甘い誘惑 -*
しばらく抱き締めたまま黙っていた先輩が、片手であたしの髪を撫でた。
びっくりして身体をすくませると、先輩がわずかに笑う。
「朱莉……。山岸くんがいるのに、俺の前で泣かれても困るよ」
少し深めのため息混じりに、先輩が言う。
耳元で囁くような声はとても甘いのに……。
その内容に、体中が感覚を失っていた。
「こんな風に優しくするのはこれが最後だ。
次、俺の前で泣かれても、優しくするなんてできない。
……第一、朱莉には山岸くんがいるんだから」
抱き締められているのに突き放されたような気分だった。
不思議な感覚に陥ったまま、どんどん深く沈んでいく。