恋の罠 *- 先輩の甘い誘惑 -*


しばらく抱き締めたまま黙っていた先輩が、片手であたしの髪を撫でた。

びっくりして身体をすくませると、先輩がわずかに笑う。


「朱莉……。山岸くんがいるのに、俺の前で泣かれても困るよ」


少し深めのため息混じりに、先輩が言う。


耳元で囁くような声はとても甘いのに……。

その内容に、体中が感覚を失っていた。


「こんな風に優しくするのはこれが最後だ。

次、俺の前で泣かれても、優しくするなんてできない。

……第一、朱莉には山岸くんがいるんだから」



抱き締められているのに突き放されたような気分だった。

不思議な感覚に陥ったまま、どんどん深く沈んでいく。




< 210 / 364 >

この作品をシェア

pagetop