【短編】キスして
なのに、今日に限って先生から呼ばれた職員室の前で会ってしまった。
職員室から出たら偶然、亮が居たのだ。
当然、目が合う。だけどプイッと逸らす。


「有紗ちゃん・・・。」


悲しい声で私の名前を呼ぶ亮に肩を掴まれ振り返ってしまう。
目が合って気まずい雰囲気が私達の周りを流れる。


「離してよ・・・。」


そう言っても亮は離そうとしない。


「亮、離して!」

「嫌だ。」


今まで聞いた事のない怖い声に思わず体が震えてしまう。
離してくれないから、私は無理矢理亮から離れた。
怖い、そんな気持ちがとぐろを巻いた。


だけどすぐ目に飛び込んできたのは少し寂しそうな亮の顔。
そんな顔しないでよ・・・。


「亮なんか大嫌いなんだから!」


また思っていない事が口からポロリと出てしまう。
そして亮の顔も見ずに教室へ走って帰った。
零れた涙がバレない様に。
教室に帰ると隣の席の女の子に「目、赤いよ?」と聞かれた。


「あ、目にゴミが入っちゃったんだ!」


なんて適当な言い訳をしてごまかした。
授業には集中なんかできずに頭は亮の事でいっぱい。

職員室の前で亮に会った時、亮は何で肩を掴んだのかな?
何か話しがあったんだよね・・・?
朝の事を謝るため・・・?
それとも・・・別れ話・・・?

愛想尽かされちゃったかな。
愛想を尽かされてもおかしくない状況だよね。

でもね、亮。
さっきの「大嫌い」は嘘に決まってるよ。
だから愛想なんか尽かさないで・・・。
そんな願いを心の中で願ったりした。
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