Trick or Treat!
 それからはあっという間だった。他になんの異常も見つからず、思ったよりも早く足が回復した芽依は予定よりも早い退院が決まった。
 退院の日も休みをもらい車で病院に行った私は、芽依の荷物の中に見たことのないビーズのネックレスを見つけた。

「芽依、これは?」
「あ…え……っとお見舞い。友達が友達のお姉さんにわざわざ作ってもらったらしくて、それをくれて…。」
「そうなんだ。なんか複雑だね(笑)。でもそれなら大切にしないとね。」
「うんっ!」

 それはそれは大切そうにハンカチで包むと、バッグにしまい病院を後にした。あれから山崎君は仕事が忙しいのか、顔を合わせていない。
 返事を出さなきゃいけないと思いつつ、そのタイミングがすっかりと外されたような感じがして、ほっとしているような、ちゃんとしないといけないと思うような…。

 でも私の中で彼への思いはどんどんと膨らんでいく自覚があった。

 家に帰って夕方なると、恭君が走って遊びに来た。

「芽依っ!大丈夫!?」
「おー、恭君ひさしぶりー。もう平気。まだ走っちゃ駄目って言われているけど、歩けるよーん。」
「うっわー。動くなっ!跳ねるなっ!座れっっ!」

 英語の教室などのタイミングが悪くて恭君は来れなかったけど、一度あかりちゃんが哲平とお見舞いに来てくれたらしい。子供がいると病棟には入れないから、ロビーまで芽依が車いすで出て行った。それをあかりちゃんは偉く恐縮していたけど、芽依にしてみれば退屈していたし、ちょうど担任の先生がクラスみんなからのお見舞いとかを持ってきてくれたので、2倍楽しかったらしい。夜面会に行ったら芽依が嬉しそうにそう教えてくれた。

「芽依ママ、芽依はハロウィン回れる?」
「え~っと明後日だっけ?回れるよ。今だっておとなしくしちゃいないしっ!」

 芽依にげんこつをやると「いったーい」と言いながら舌を出していた。

「だってー、もう平気なんだも~ん。」
「それが駄目だって言うんだよっ!芽依、しっかり治せよ!明日から俺が鞄持って行ってやるからっ!」

 おうおう恭君、すっかりナイト気取りだね(笑)。恭君は昔っから芽依にべったりだったもんね。

「今日、簡単にだけど芽依の退院祝いするけど恭君も参加する?どうせハロウィンの準備に来たんでしょ?」
「え?いいの!?参加するー!ママに電話して!」
「了解っ!」

 二人でなにやらごそごそと作り出したので、あかりちゃんに電話したら、『私も参加するー。今シチュー作ったからそれ持参する。もうちょっとしたら上の子も帰ってくるから一緒に行くわ。』という返事だったので、結局いつものメンバーでの食事になった。


 そしてハロウィン当日。私たちは自治会館で夕方から飾り付けをして、いちど家に戻った。お菓子が提供できる印であるカボチャのマークを下の郵便ポストと玄関に貼り付けて準備する。
 あかりちゃんは哲平もいるから付き添いの保護者をやってくれている。

 この時期夜が更けるのも早い。お菓子の準備を済ませて、ちょっとベランダに出てみると遠くから「Trick or Treat!」という子供達の声が聞こえる。おお、もう始まったか。何班かに別れて回っているからあちこちから声が反響している。ハロウィンに参加してくれる家は年々少しずつ増えて、今では30世帯を超える。子供達は特製の手提げ袋がぱんぱんになっていくのを楽しんでるんだ。

 芽依は今回包帯ならぬトイレットペーパーを体に巻き、ミイラ女になっていた。当初の予定では魔女だったけど、入院している時に包帯巻きになっていた自分を見て変更したらしい。

「Trick or Treat!」

 最初の声が暫くして近づいてきたのが分かった。ダイニングテーブルに置いておいたお菓子の箱を玄関に移動する。

 インターフォンが鳴り玄関を開けるといろんな仮装をした子達が5名ほど立っている。

「Trick or Treat!」

 元気な子供達の声に私は「Happy Halloween!」と応えて、お菓子を渡していく。子供達は「ありがとー!」ときゃいきゃい言いながら去っていく。それを何回か繰り返してようやく最後の班である芽依達がやってきた。

「Trick or Treat!」
「Happy Halloween!」

 子供達にお菓子をあげる。さてこれで終わりかな、と思っているのに、子供達がなかなか去らない。

「どうしたの?」

「Trick or Treat!」
「ええ?! いまお菓子あげたじゃんっ!」
「Trick or Treat!」
「ちょっと待って、え?何?」
「よーし!いたずらしちゃおうっっ!」

 そういって子供達がわーっと私を囲んで部屋から引っ張り出した。

 そこには…

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