Trick or Treat!
背後から聞こえた声は確認するまでもない山崎君だ。そうだよ、実際の私はこんな感じだよ。余裕なんてない。彼の言うおおらかさなんてない。ほら、幻想見ているって言ったじゃん。
こんな私に付き合うことなんて無いよ。
「分かっているよ。もう落ち着いてきたし大丈夫。……だからもう帰っていいから…。」
「ほらすぐそうやって自己完結する。」
「本当にもういいから。」
「何が大丈夫なんだよっ!」
振り返る間もなくぎゅっと抱きしめられた。
「一人で泣くなよ…。頼むから……。芽依ちゃんは無事だったんだ。それでいいじゃないか。あなたが色々と責任感じることはない。」
「山崎…君。」
「一人で泣く辛さは俺がよく知っているから…。」
彼はあの夜私に言った。ネグレクトを受けていたと。親にその存在を無視され、一人で部屋にいたと。
「こんな時に言うのは卑怯だと分かっている。でも俺を頼って。お願いだから、一人で泣かないでよ。せめて今だけはさ。」
ほんの少し。ほんの少しの間だけど、頼っていいですか?
彼の胸を借りていいですか?
私は彼の胸の中でひたすら嗚咽を漏らしていた。
途中のコンビニでお弁当を買いつつ、病院に向かい、あまつさえ荷物を運んでもらった。たいした量じゃないのに…。
芽依の病室で二人で食事を取っていると、芽依がゆっくりと目を覚ました。
「ママ?」
「あ、芽依ちゃんっ!大丈夫?」
「う~~~頭が痛いぃぃ。ここどこぉ?おうち?」
「病院。覚えている?ジャングルジムから落ちちゃったんだよ?」
「…覚えてないぃぃ。」
とりあえずナースコールをして芽依が起きたことを伝えると、ドクターもすぐにきてくれて診察を始めた。ショックによる記憶障害は良くあることらしく、一時的なものが多いし、そうでなくても他のことはちゃんと覚えているので問題ないとの事だった。
「あ、チコちゃんだ。」
横に置いておいたウサギのぬいぐるみを抱えて嬉しそうに笑った。
「5日間くらい入院だって。」
「ママ、心配かけてごめんね。」
「いいの。それより今日はママも泊まれるけど、明日からは一人だよ。大丈夫?」
「う~~っ!赤ちゃんじゃないもんっ!大丈夫だもんっ!ってお兄ちゃんだれ?」
芽依がようやく山崎君の存在に気づいた。山崎君はみんなの邪魔にならないようにずっとひっそりと壁際に立っていた。
「山崎修也です。君のお母さんの事が大好きな会社のお友達。」
「ちょっと山崎君!」
「ママのこと好きなの?」
「とっても。」
「そっか…。」
芽依はすごく嬉しそうな顔をしていた。私は恥ずかしくなって彼の肩をバンバン叩くと、それを笑っていなされてしまった。
「とりあえず芽依ちゃんも無事だったのが確認できたので、俺は今日帰りますね。明日も休んでください。会社には俺がちゃんと報告しておきますから。」
それだけ言うと、バイバイ!と芽依に手を振って病室から出て行った。芽依は布団の中でクスクスと笑っている。
「ママの事が大好きなんだって。」
「そ、そう…みたい…ね。」
「かっこいい人だね。」
「う、うん。」
「ママ…。」
「ん?」
「かわいい(笑)!」
「大人をからかうなっ!」
ペシッと腕を叩くと「ひどい!けが人なのにっっ!」と大げさに泣き真似をしていた。
「大丈夫!ここ病院だしっ!」
「鬼っ!」
ようやくいつもの二人の会話に戻っていった。
こんな私に付き合うことなんて無いよ。
「分かっているよ。もう落ち着いてきたし大丈夫。……だからもう帰っていいから…。」
「ほらすぐそうやって自己完結する。」
「本当にもういいから。」
「何が大丈夫なんだよっ!」
振り返る間もなくぎゅっと抱きしめられた。
「一人で泣くなよ…。頼むから……。芽依ちゃんは無事だったんだ。それでいいじゃないか。あなたが色々と責任感じることはない。」
「山崎…君。」
「一人で泣く辛さは俺がよく知っているから…。」
彼はあの夜私に言った。ネグレクトを受けていたと。親にその存在を無視され、一人で部屋にいたと。
「こんな時に言うのは卑怯だと分かっている。でも俺を頼って。お願いだから、一人で泣かないでよ。せめて今だけはさ。」
ほんの少し。ほんの少しの間だけど、頼っていいですか?
彼の胸を借りていいですか?
私は彼の胸の中でひたすら嗚咽を漏らしていた。
途中のコンビニでお弁当を買いつつ、病院に向かい、あまつさえ荷物を運んでもらった。たいした量じゃないのに…。
芽依の病室で二人で食事を取っていると、芽依がゆっくりと目を覚ました。
「ママ?」
「あ、芽依ちゃんっ!大丈夫?」
「う~~~頭が痛いぃぃ。ここどこぉ?おうち?」
「病院。覚えている?ジャングルジムから落ちちゃったんだよ?」
「…覚えてないぃぃ。」
とりあえずナースコールをして芽依が起きたことを伝えると、ドクターもすぐにきてくれて診察を始めた。ショックによる記憶障害は良くあることらしく、一時的なものが多いし、そうでなくても他のことはちゃんと覚えているので問題ないとの事だった。
「あ、チコちゃんだ。」
横に置いておいたウサギのぬいぐるみを抱えて嬉しそうに笑った。
「5日間くらい入院だって。」
「ママ、心配かけてごめんね。」
「いいの。それより今日はママも泊まれるけど、明日からは一人だよ。大丈夫?」
「う~~っ!赤ちゃんじゃないもんっ!大丈夫だもんっ!ってお兄ちゃんだれ?」
芽依がようやく山崎君の存在に気づいた。山崎君はみんなの邪魔にならないようにずっとひっそりと壁際に立っていた。
「山崎修也です。君のお母さんの事が大好きな会社のお友達。」
「ちょっと山崎君!」
「ママのこと好きなの?」
「とっても。」
「そっか…。」
芽依はすごく嬉しそうな顔をしていた。私は恥ずかしくなって彼の肩をバンバン叩くと、それを笑っていなされてしまった。
「とりあえず芽依ちゃんも無事だったのが確認できたので、俺は今日帰りますね。明日も休んでください。会社には俺がちゃんと報告しておきますから。」
それだけ言うと、バイバイ!と芽依に手を振って病室から出て行った。芽依は布団の中でクスクスと笑っている。
「ママの事が大好きなんだって。」
「そ、そう…みたい…ね。」
「かっこいい人だね。」
「う、うん。」
「ママ…。」
「ん?」
「かわいい(笑)!」
「大人をからかうなっ!」
ペシッと腕を叩くと「ひどい!けが人なのにっっ!」と大げさに泣き真似をしていた。
「大丈夫!ここ病院だしっ!」
「鬼っ!」
ようやくいつもの二人の会話に戻っていった。