君が死んだ日
君が死んだ日
「春香!春香!!」

何度も呼び掛けた。だが冷たくなってしまった春香はもうなにも答えてくれない。
その光景を見て、春香の両親は耐えきれず病室を出ていく。

「春香ぁ・・・くそ!くそっ!」

悲しみのような憤りのような、なにとも言えない感情が涙とともに溢れだす。
そんな俺を尻目に先日まで、いや、俺が来るまでは弱々しくも喋っていた春香は、物言わぬ石像のように冷たく眠るばかり。

「春香が俺に会いたいって・・・最期に言ってくれたのに・・・・・・俺は・・・俺は!!」

怒り、そして後悔の声が病室に響き渡る。
病院に駆けつける途中で飲み物を買っていなければもしかしたら・・・そんな考えが頭を幾度となくよぎる。
しかしもう遅い。間に合わなかったのだ。

「ごめんな春香・・・最期にお前の頼みを聞いてやれなくて・・・・・・本当にごめんな・・・」

届かないとわかりつつも、俺は謝罪の念を口にした。
息切れと嗚咽で掠れた声が病室の壁に虚しく消える。
渇いた喉を潤すために病院に駆けつける途中で買ったトロピカルココアという飲み物に口をつける。

「な、なんだこれは!」

俺は驚愕した。

「ココアの苦味の中にほのかに感じる甘み!口の中に広がるさわやかな渋み!そして舌を撫でるようなまろやかな口当たり!なんて美味しいココアなんだ!」

喜びのような感動のような、なにとも言えない感情がヨダレとともに溢れだす。
堪らずトロピカルココアを飲み干した。
そんな俺を尻目に先日まで、いや、俺が来るまでは弱々しくも喋っていた春香は、物言わぬ石像のように冷たく眠るばかり。
トロピカルココア、また買おう。そう心の中で静かに決意をした。

「それはそうと春香・・・春香ぁ・・・」

涙を流して彼女の名を呼ぶ。
それ以外はなにも出来ない。
無力。ただあまりにも無力な自分。
しかしそんな自分に怒りも、悲しみも、絶望ですら感じることはなかった。

春香が目を覚ますことはもうない。体温を取り戻すことはもうない。
胸に大きな穴が空いたような激しい虚無感が俺にまとわりつく。

そのせいかやたら口が乾く。
俺の口はトロピカルココアを求めていた。

春香のそばにいたい。
そう思いつつも、俺は欲望に抗うことが出来なかった。

「ごめんな春香・・・・・・本当にごめんな・・・」

そう呟いて俺は病室を飛
忘れられない味、トロピカルココアを求めて・・・。
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