闘志、燃ゆる魂
 次にいた場は、火と煙が蔓延していた。家々は燃え盛り、木々はただれていた。周りには骸が転がり、家畜、人。どれもが生を終わらせている。

 少し、歩いた。足取りは軽くも重くもない。あの男は自分に名を与え、武器を与えていた。自分が『人』として生きる為の能力は備わっている。武器は大刀といった。それも、あの男が与えた記憶の中にある。柄は長く、穂先には刃。曲線を描き、幅も広い。刃には『志』の文字。これが何を意味しているのかまでは知り得ないが。


「――おいっ!!」


 降りかかる声がある。野太く、粗末な衣をまとっていた。頭には何やら黄色の布をしているが、手にする剣、矛から男達の様子がうかがい知れる。数は五人かそこらか。すでに男が壁を作っていた。


「この野郎、何とか言えっ!!」


 振りかざされる拳を、その場で掴む。男は一瞬怯んだが、すぐに力を入れ直していた。だが、それでも拳はぴくりとも動かない。男の拳を今度は押し返してやった。男はあまりの強さに悲鳴を上げていた。


「てんめえ……。命がいらねえようだな……! 大人しく身ぐるみ置いてきゃいいものを……!」


「生憎、持ち合わせはない。あるとするれば、これだけだ……」


 手にする大刀を向けた。男の顔が見る間に血の気に染まっていく。


「かまうこったあねえ! 殺っちまえ!!」


 と、男はついに我慢ならずに斬りかかって来た。それを一閃。二人がなぎ払われた。次に、一人を突き殺した。滲み出た血が刃を伝い、滴り落ちる間も無く、また一人と斬り伏せた。


「なっ……!」


 胴と首の離れた死体が生まれた。最後に残った男は驚愕して、仲間の遺骸を追った。すぐさま後ずさりして逃げようかとも思った。だが、出来なかった。体が動く間際、すでに足が無かった。


「終わりだ――」


 迷いなき声に送られて、男は死んだ。胸を一突き。うつぶせに倒れて逝った。

 大刀を振り払い、露を落とす。死体には目もくれず、進んだ。

 凄惨な声がする。また、誰かの命が終わりを告げたのだろう。それに、動揺などしなかった。この時代、この世が戦乱であるのは、あらかじめ記憶されていた。武器の扱い方も、それに超した力が備わっている。万能ではないにしろ、あの程度の雑魚を蹴散らすには十分であった。
< 3 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop