闘志、燃ゆる魂
 裴元紹の話では、周倉が斬ったのは黄巾党(こうきんとう)の名を騙りし者。黄巾党とは、大賢良師張角を教祖として崇め、膨大な信者を集めた教徒集団であった。信者の数は数万とも数十万とも言われ、多くは生活に困窮した百姓達が集っている。そして、頭に黄色の布を付けているのを同志とし、信者の数を増やしていた。


「だけど、数が多けりゃ多いほどいいってもんじゃねえんだよなあ、これが……」


 先のように、黄巾党を騙りし者、黄巾党の中にいる悪玉。それ故『黄巾賊』などとののしる連中もいる。


「確かに、俺らは賊かもしれねえ。だけど、それは漢王朝(かんおうちょう)の奴らがいけねえ! 俺達は食うのにも困っているのに、あいつらは帝を意のままに操り、逆らう者は簡単に殺す。そんな実情を許しておけるか! だから、張角様は百姓達を募っておられる」


「その、百姓を募ってお前達は何を企んでいる?」


 数十万の信者を従え、漢王朝への反感。指し示す先は無論一つしかない。


「この国を、変える――」
「やはりな……」


 漢王朝へと反旗を翻し、今こそ民の苦しみを味あわせてやるべきだ、と。だが、周倉はこれには賛同しない。するつもりもなかった。


「お前は、それで何を変える? 無下に命を晒して何を得る?」
「それは……」


 言葉を詰まらせた裴元紹に周倉は背を向けた。


「お、おいっ!」
「お前に付き合っている程、暇ではないからな……」
「なっ……! てめえ! 死んでも知らねえぞ!!」
「望むところだ……」
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