闘志、燃ゆる魂
――くだらない……。

 漢王朝、すなわち、この大陸を治めし国の総称。それに抗う、か。記憶の中に世の実情を探る。王朝は四百年もの歴史を持つ、由緒ある国であった。しかし近年、その力は急速に衰退しており、背後には官の姿があった。その上帝は政治に関与を示さない。そうなれば全てが思いのまま。


(あの男、とんでもない所に送りこんでくれたな……)


 世の変わり際、とでも言うべきか。

 そもそも、あの男が何者かすら見当がつかない。何故自分を送り込んだのか、名を与え、武器を与え、知を与えた。あの男の意図は何だ……?
 詮索している内に、敵が取り囲んできた。気配が無かったのは考えにふけっていたせいか。いや、始めから待ち伏せしていたのかもしれない。


「副頭目! こいつです! こいつが、さっき仲間を殺したんです! 俺は見ましたよ!!」
 指さされて、周倉は相手を睨んだ。

 おめおめ逃げ帰ったという訳か、正確な数を把握していなかったのは落ち度だった。


「ひっ……!」


 気の弱そうな男が怯んだ。だが、背後から現れた副頭目は目を凝らしてはうす笑いを浮かべている。


「へえ、中々おもしれえ奴じゃねえか。どうだ、俺ら黄巾党の仲間になられえか?」
「黄巾賊、の間違いではないか?」


 この口ぶり、おそらくは裴元紹の言っていた黄巾を騙りし者、か。副頭目は馬に乗っている。しかし、手下共はうす汚い着物に、血のついた武具。さらには村民から盗んだのではないかとされる供物まで持っている。


「いかに待ち伏せをしても、加担するつもりなどない」
「このっ……!」


 一人が進み出た。剣を振り上げたが、遅い――

 首筋を斬り、息絶えた。


「副頭目! こいつ聞く気なんざないですよ! 殺っちまいましょう!!」
「ちっ……。無謀にもこの人数で挑むなんざ、命知らずだって事を教えてやれ!!」


 舌打ちをして、賊が襲いかかる。副頭目はひとまず様子を覗い手下共に任せる腹だ。馬を動かさずにこちらの様子を凝視している。

 次々と敵は周倉の手にかかり、地に伏し生を終わらせた。血の華、血の池。血染めの楽園であった。副頭目は尚も馬を進めない。時折、手下から噴き出た血を浴びては吟味しているのであった。
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