重なる身体と歪んだ恋情
桜吹雪
千紗
真っ白なドレスに桜の花びらが舞い落ちる。
長く広がった裾は重く、まるで囚人の枷のよう。
ベールで隠された視界は白く霞んで。
これは私の将来を暗示しているのかしら?
「千紗さん、本当にお綺麗よ」
涙ぐんでそう口にするお祖母様にはにこりと微笑んで「ありがとうございます」と返した。
だけど、
「あぁ、如月さん。お出迎えありがとうございます。ほら、お前も」
と、頭を下げるよう強要する兄には心底嫌そうに顔を歪めた。
どうせ見えないだろうけど。
目の前に止まったのは自動車と呼ばれる車。
こんなものを持っているのはこの日本にどれほど居るのかしら。
きっとそれを誇示したいのね。
「千紗様、どうぞ」
恭しく燕尾服を着た男が頭を下げる。
私は促されるまま車に乗り込んだ。
窓を見れば見事なまでに咲き誇った桜が見える。
わが、桜井家に昔からある桜の木。
一陣の風が花びらを浚い視界を桜色に染める。
桜吹雪の中、車は無粋な音を立てて進み始めた。
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