重なる身体と歪んだ恋情
それから話したのは他愛の無いことばかり。


「どんな本がお好きですか?」

「特に決めていませんが。やはり青春ものとか」

「恋愛ものとか?」


なんて言われて、ちょっと不貞腐れてシャンパンを飲んだり。


「奏さんは何を?」

「私は目に付いたものはなんでも。話題になってる本は仕事上何かの役に立つかとほとんど目を通してますし、人から勧められる本なんかも」


見渡せば本当にいろんな分野の本が乱雑と置かれている。

だけど平塚らいてう先生の本なんて誰が薦めたのかしら?

基本、男の方は嫌うことが多いのに……。


「そういえばハーブがお気に召したとか」

「あ、郁に教えてもらって。本当にいろんな種類があって!」


そう話を続けると奏さんの視線が急に冷たく感じられて。


「奏、さん?」

「千紗さん」


低く呼ばれる声に思わずビクッと震える私の身体。


「使用人の名前を親しそうに名前で呼ぶのは感心しませんね」

「で、でも、如月と同じ苗字だしそれなら年下の郁のほうを名前で呼ぶのは――」


当たり前、そう言いたかったのに。


「そうですね。考えてみれば私も『郁』と呼びますし」


そうニコリと言われてもこれ以上郁の話をする気にはなれなかった。
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