重なる身体と歪んだ恋情
だからとりあえず、手に持ってるグラスを唇に運んで液体で喉を潤す。
ワインでなくてよかった。
あの酸っぱさに私はさらに顔を歪めないといけないところだったから。
だけど、
「あれ?」
机の上に置いたつもりだったのにグラスは床に落ちてしまって。
砕ける音が頭の中を反響してる。
「危ないから触らないで」
「大丈夫です。私が落としたのだから――」
そのグラスの破片を集めようとして、
「え?」
視界がぐにゃりと歪んだ。
指先にチクリとした痛みを感じたけれどそれどころじゃなくて。
「弥生っ、救急箱を! それから――」
彼らしくない荒げた声が頭の上の方で聞こえる。
それから私の身体はふわりと浮いて。
指先の痛みも彼の声もそれ以外の音も、
すべて遠ざかって行った。