重なる身体と歪んだ恋情
誰に案内してもらうでもなく一人奥の離れに。
まだ明かりの無い部屋に入り明かりをつけてようやくタイを外した。
それから窓際の椅子に腰を下ろして息を吐く。
傍机には前に読みかけだった本がそのままあって少し笑えた。
それを手にとってしばらく眺めていると、
「本当にお帰りにならないのですか?」
佐和子が入ってきた。
「そんなに私を帰らせたいのですか?」
微笑む私に「そんなことは……」と言葉を詰まらせながら襖を閉める佐和子。
別に佐和子を特別好ましいと思っているわけじゃない。
けれど彼女は特別だ。
「でも結婚なさったのですからこういうことは――」
「どういうこと?」
なかなか近づこうとしない彼女の腕を取って引き寄せる。
よろめきながら私の上に体を落として、
「佐和子」
目を逸らす。
だから彼女の顎を捕らえて、口付けを交わす。
「だからこういうのはっ」
「好きだよ、佐和子」
私の欲しいものをくれる君が、好きだよ。