重なる身体と歪んだ恋情
「だ、大丈夫でしょうか!? お医者様をっ」
「必要ないですよ、シャンパンに酔われたのでしょう」
静かにそう告げると弥生も少し落ち着きを取り戻し千紗の指先の血を拭い始める。
「それほど深くは無いようですね。包帯は大袈裟かもしれませんが血が止まるまでは仕方ないでしょう」
私の声に「はい」と頷き弥生は彼女の細い指に包帯を巻いて。
「どうかなさいましたか?」
司が飛び込んできた。
「ガラスの破片で少し切っただけです。あぁ、気を失ってるのは酔いが回ったからですよ」
いい加減、同じ説明をするのも疲れる。
包帯を巻き終わるのを見届けて千紗の体を抱きかかえ立ち上がる。
「私が――」
「大丈夫ですよ、ベッドには私が運びますからもう下がっても」
そんな私の台詞に司は少し、本当に少しだけ眉をひそめた。
私も、酔ったのかもしれない。
「それとも私と一緒に楽しみたいというなら――」
「奏様っ!」
挑発する私に本気で怒る司、そんな状況に居たたまれなくなったのか弥生は「失礼します」と頭を下げて部屋から出て行ってしまった。
「冗談に決まってるだろう?」
息を吐き出し歩を進める。
「だから冗談でも言っていいことと悪いことが」
「いいんだよ」
彼女を抱えたまま振り返る。
「これは私のものなんだから」
「……奏」
これ、とは勿論千紗のこと。
千紗は私が金で買ったのだから間違えてはいない。
「だが、私と司の仲だ。司が欲しいのなら好きにして構わないよ。出来れば私好みの女にしてもらいたいくらいだよ」
「……本気で言ってるのか?」
「上手い冗談が言えるほどしらふじゃないな」
シャンパンは酔いが回るのが早い。
薄く笑みを浮かべる私に司は神妙な顔をして。
「なら、彼女を開放してやれ。まだ16だ」
そう、もう16。
「身体はちゃんと女だったよ。私にはもう少し物足りないけどね」
「……」
私の台詞にギリッと奥歯を噛み締める司。
「部屋で待っているよ」
だからそういい残して千紗の部屋のドアを開けた。