重なる身体と歪んだ恋情

「あら、郁は悪く無いわ。郁が教えてくれなくても私一人でもここに来るつもりだったもの。はい！」


ニコリと笑ってスープを差し出す千紗様。

恐らく、私がこれを食べ終えるまでは梃でも動かないつもりだろう。

だから、


「……ありがとうございます」


仕方なくそう口にしてスープを受け取る。

すると彼女はパンを取り出して郁の用意した皿においてニコニコ笑って。


「はい、兄さん水」

「……」


グラスに入れられた水越しに見えたのは楽しそうな笑みを浮かべた郁。

だからこそギロリと睨めば、


「兄さんが食べ終えたらちゃんと千紗さまをお屋敷まで送りますから」


なんて。


「当たり前だ。それよりも――」


気になることがある。


「このこと、料理長の山崎以外誰か知ってるのか？」


私の声に郁は少し考えるように視線を宙に漂わせて。


「小雪さんと、あの時厨房にいた人は知ってるかと」


あっさりとそう答えた。

千紗様にいたっては、


「大丈夫よ、ちゃんと小雪に言ったもの」


なんて脳天気な台詞まで。