重なる身体と歪んだ恋情
「まだ病院が開いていませんから」
そんな如月の声を無視して急いで支度を。
何か持って行くものが必要かしら?
入院しているなら着替えとか――。
「如月、桜井の家に寄ってお祖母様に必要なものを」
「その必要はありません」
「……」
「昨日、私がすべて揃えましたから」
「どういう……?」
ことなの?
唖然とする私に如月は小さく息を吐いて私をソファに座らせた。
「昨日、桜井の家で寝込まれてる祖母様を見つけたのは私です」
「え? だ、だって兄様は!?」
寝込んでるお祖母様を放っておいて兄様は何をしているの!?
「恐らく借金取りから逃げ回っているのだと」
「……」
まさか。
そう思いたかったけど、あの兄様ならあり得るから。
「でっ、でもうちの使用人は? スズはいたのでしょう!?」
それならばお祖母様に不自由は無いはず。
そう思って確認する私に如月は首を左右に振った。
「お祖母様以外、誰もいらっしゃいませんでした」
「え?」
目の前が真っ暗になる、というのはこんなときに使う言葉なのかもしれない。
兄様がいてもいなくてもどうでもいい。
寧ろいないほうがお祖母様の心も安らかと言うもの。
だけど、お祖母様は生まれながらのお公家様。
料理なんてしたこともなければお風呂の入れ方だって知らないだろう。
そんな彼女が一人きりだったなんて――。