重なる身体と歪んだ恋情
曇り空の下、如月とお見舞いのお饅頭を持って病院へ向かった。

彼の用意してくれた病室は個室で。


「まぁ、千紗さん! よくいらしてくれたわねぇ」


お祖母様は昔と変わらない笑顔で私を出迎えてくださった。


「お祖母様も調子が悪いならご連絡くださればよかったのに」

「そんな、ただの疲れよ。それを入院なんて、大袈裟だわ」


お上品に笑うお祖母様に如月が「申し訳ありません」と頭を下げる。


「それに使用人もみんな辞めてしまったとか。ご不自由でしょ?」


傍に寄ってお祖母様の手を取る。

あれだけふくよかで綺麗だった彼女の手は痩せてカサカサで……。


「いいえ、千紗さん。もう私しか居ないのですもの。自分のことくらい自分で出来るわ」

「そんな――」


今までやったことも無いのに。


「このたびは本当に桐生様にご迷惑をかけて」

「そのようなお気遣いは無用です」


病室の花を交換しながらの如月の台詞にお祖母様は少し寂しそうな笑みを見せた。そして、


「これからも千紗をよろしくお願いします」


お祖母様は如月に向かって頭を下げた。


「お止めください、桜井様。私は主人の命を受けてやっただけのこと。奏様にしても貴女様の孫に当たるのですから当然のことをしたまでです」


そう言いながら如月は優しくお祖母様の体を起こす。

よく見れば鎖骨が浮き出て顔だって痩せて。


「千紗さん、貴女はこんなにお優しい旦那様と使用人を持てて本当に幸せな子ですよ」


そのやせ細った手で私の頭を撫でていく。


「貴女が幸せそうで、本当に嬉しいわ」


お祖母様がそう言うから、


「……えぇ、お祖母様。私は幸せです」


私は嘘を付いた。

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