重なる身体と歪んだ恋情

なんて、不自由な贅沢。

これから先、私は食べることにも着ることにも困ることは無いだろう。

それを幸せと言うのかしら?

ずっと履きっぱなしの靴が窮屈で、足をブンブンと振って靴を脱ぐ。

トンっと靴が床にぶつかる音がしたけれど、どこに転がったのかはどうでもいい。

息苦しい。

私はまるで金魚鉢の金魚ね。

食べるものには困らなくても、息苦しくて口をパクパクさせるの。

だけどもらえるのは落ちてくる餌だけ。

金魚鉢の外が見えても出ることは無い。

観賞用に飾られて、一生ここで過ごすのだわ。


「誰か……」


何かを言いたかったのだけど、それ以上は言葉に成らなかった。

だって、なんていえばいいの?

誰に言えばいいの?

伝える相手も、伝える言葉も見当たらない。


ただ、口をパクパクさせるだけの金魚と同じね――。


< 23 / 396 >

この作品をシェア

pagetop