重なる身体と歪んだ恋情
「千紗様」
「――っ」
叩かれるドアの音と私の名前を呼ぶ声で目を覚ました。
見える景色に一瞬声を呑んで、「なに?」と答えたけれどドアは開かない。
「夕食のご用意が出来ました。下に降りられませんか?」
夕食? もうそんな時間なのね。
時間を確かめようにもこの部屋には時計もない。
「えぇ、すぐ降りるわ」
だけど窓の外からは太陽の光は無い。
上から自分の姿を確かめたけれど、鏡が無いから自分の顔を見ることも出来ない。
時計と鏡。
これは欲しいかも。
そう思いながら髪を手くしで簡単に整えてドレスの裾を払って靴を探す。
みっともなく転がった靴を履いてみるとちょっときつくて痛いくらい。
靴、はかないとダメかしら?
私は小さくため息を付きながらそれでも靴を履いた。
ドアを開けるとそこには頭を下げた如月の姿が。
「ねぇ、如月」
「はい」
「この姿、おかしくない?」
そう聞くとゆっくりと頭を上げる如月。そして、
「いいえ、とてもお似合いでございます」
「……そう」
当たり前よね。『おかしいです』なんて言えるはずも無い。だから、
「時計と鏡が欲しいわ。いろいろと困るもの」
「それでは明日にでも買いに行きましょう。横浜に輸入家具を取り扱ってる会社がありますので、千紗様もお気に召すものもあるかと」
あっさりとそんな台詞を口にする。
彼の会社なのかしら?
そんなことはどうでもいいから、
「そうね」
と私も軽く答えておいた。