重なる身体と歪んだ恋情
階段を上がり閉じられるドア。

もう、どうしようもないと悟ったから、


「小雪、弥生も。今日はもう下がりなさい。他のものにもそう伝えて」


私の声に二人は戸惑いながらも頭を下げ、「失礼します」と下がって行った。

賢い弥生のことだ。

明日の朝まで2階には誰も上がらないし泊り込みの使用人たちも自分達の部屋からは出てこないだろう。

そして私はと言えば、

まるで案山子のように階段下に突っ立っていた。

人にはそう命令したのに、自分の身の処し方が分らない。

時折聞こえる千紗様の叫び声に目を伏せて、ただ立ち尽くしていた。


千紗様は奏の女性関係を感づいていた。

それは八重から始まって、日々の彼の素行から。

ハーブティに零した涙は自分を悲観してのものだけでは無いはずだ。

千紗様にしても少なからず奏のことを気にかけてる。

そして奏も。

海外から買い付けたハーブや花の数々。

あれはすべて千紗様のためのもの。

表面上は郁に頼まれたから、なんて言っているがあれで商売なんて出来るはずが無い。

なら、どうして優しく彼女に接し無いのか。

一体彼は彼女に対して何を怒っているのか。

奏の考えることは昔から私には理解不能だ。



どれだけこの場に立ち尽くしていたのだろうか。

静まり返った屋敷の中でドアの開く音が聞こえた。

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