重なる身体と歪んだ恋情
処置道具を持って階段を上がる。

ドアに寄りかかる奏が私に気付き部屋のドアを開けた。

その部屋に入ろうとして、少し戸惑う。

傷をつけたってもしかして――?

奏を見ればクスクスと笑って。


「もう服は着せてあるから心配なく。まぁ、見たければ見ても構わないしそのまま――」

「失礼します」


彼の言葉を遮り部屋の中へ。

薄暗い部屋の窓際に彼のベッドがある。

そこには横たわる一人の女性。

いや、少し見方を変えれば少女といっても可笑しくない彼女。

彼女は真っ白なガウンを着せられてその頬を涙に濡らしたまま横たわっていた。

少し汗ばんだ肌、見える部分に傷はないが……?


「ここだよ」


そう言って奏が掴んだのは彼女の腕で。

ガウンの袖部分がめくれて真っ赤に染まった手首を露にする。


「――っ!?」

「仕方ないだろう? 嫌だと暴れるものだから縛っておいた」

「な、んて……」


なんてことを――っ!!

声には出さずに彼の胸倉を掴んで体を壁に叩き付けた。


「奏っ! お前は――!!」

「夫婦として扱えと言ったのは彼女のほうだ」


苦痛に顔を歪めながらの奏の台詞。


「これが夫婦のすることか!?」

「子を成すことのなにが悪い?」

「このやり方が間違って無いとでも言うつもりか!?」

「ならっ!」


私の手を振り払い、今度は奏が私の胸倉を掴みベッドの柱に体をぶつけた。


「お前がやればよかったんだ」

「なにを……」

「あんな男に奪われるくらいなら、お前が奪えばよかったのにっ」

「……」


こいつは何を言ってるんだ?

自分が妻にと望んだ彼女だろう?


「それなら、私も諦める事ができたのに――」


最後の声は小さくて、聞き取るのも難しいくらい。

だけど、諦める?

その言葉に思い出したのは彼の父親の言葉で……。
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