重なる身体と歪んだ恋情
「千紗様は、奏様を慕っておいでです」
そう言った私に奏様はフッと笑って私を解放する。
「千紗が慕ってるのは司、お前だった」
「それはお世話係としてで――」
「いいから、早く処置をして部屋に戻してくれ」
「……畏まりました」
彼の愛情は歪んでる。
こんなことをしてもなお、多分彼は彼女を愛してる。
縛り付けてでも自分のものにしたいくらいに。
手首の傷を消毒して包帯を巻いていく。
見た目ほどひどい傷じゃない。きっと数週間のうちには治るだろう。
処置を全部終えると、
「連れて行ってくれ」
窓際の長椅子に座ったまま彼はそう言った。
だからそのまま彼女を抱きかかえて、
「失礼します」
彼の部屋を出た。
そして向かいの彼女の部屋へ入りそっとベッドの上に。
目の端に浮かぶ涙をそっと拭って彼女の部屋を出た。
ドアを閉じ、小さく息を吐く。
どうするのが一番いいことだったのか。
奏の言うとおり、私が千紗様を連れ去るべきだったのか?
いや、違う。
彼女が私に寄せる感情は父親やそれに似たもので愛情とは違う。
そして私が彼女に寄せるものも同じはずだ。
いや、そうでないといけない。
そう思うのに、
この後悔の念はなんだ?
あの時の、絶望に満ちた千紗様の目が忘れられない――。