重なる身体と歪んだ恋情

「司っ! どうしたらいい!?」


奏に名前を呼ばれてハッとした。

それからすぐに駆け寄って、彼女の顔を覗きこむ。

汗だくで苦痛に歪む千紗様の顔。

その首元にそっと手を這わせて、

ホッと息をついた。

生きてる。


「すぐに水を飲ませましょう。脱水症状を起こしてるんです」

「水――」


繰り返すように奏がそう口にすると小雪が水差しを持って来て。


「お水です! あ、あのっ、他には!?」

「着替えの用意を」


私はそう口にして小雪から水差しを受け取った。

そしてすぐさま彼女の口へ。

けれど水は彼女の喉を通過することなく唇から零れていく。

もう自力では飲めないほど衰弱しているのだ。

だから、


「司?」


自分の口に含んで彼女の唇に。

なのに水はすべて零れてしまって。だからもう一度水を含んで口付ける。

するとコクリと喉が動いて、


「千紗様!?」

「……」


薄く彼女の目が開いた。

そして唇を小さく動かし何かを告げようとする。

その声に私も奏も耳を傾けた。聞こえてきたのは、


「……おおの、せん、せ?」


ここには聞いた事の無い人物の名前で。

不思議に思っている私にクスリと乾いた笑いが落ちてくる。

その声の主を見上げればひどく歪んだ笑みを浮かべて、


「あの男の正体も知らないくせに」


奏はそう吐き捨てて彼女の体から手を離した。


「奏、彼女の意識はまだ混濁してるんだ。気にすることは」

「混濁してもあの男の名前を口にするとは。お姫様は私でもお前でも無い、別の王子を待っていたのだよ」

「……」

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