重なる身体と歪んだ恋情
仕方の無い、ことだろう。

彼女は夫である奏から乱暴され、付き人である私にも裏切られたと思っているのだから。

彼女にとって味方なのは『おおの先生』という人物だけだったのかもしれない。


「知っているのか?」

「何を?」

「彼女が口にした人物を」


そう聞くと奏は自嘲するような笑みを。


「知ってるもなにも彼女の英語の先生で、不義の相手だ」

「馬鹿な」


一蹴する私に奏はクスリと笑う。


「まぁいい。これでもう大丈夫なのだろう?」

「恐らく……」


水を大量に飲ませて安静にさせれば、大丈夫なはずだ。

その私の台詞に奏はいつもの様な笑みを浮かべる。


「なら、これからもこんなことが無いように頼むよ。死んでしまっては意味が無い」

「奏っ!」

「弥生、先生がいらした丁重に出迎えて。それからワインを部屋に運んでください」


そして奏は部屋から出て行ってしまった。

あれだけ取り乱したくせに、それを無かったことにするよういつもどおりの態度で。
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