重なる身体と歪んだ恋情
それから先生がいらして、私の見立ての通り脱水症状を起こしているとの診断を貰った。


「いきなり暑くなりましたからな、水分捕球はこまめに」


その声にお辞儀をして先生を見送った。

千紗様の部屋に戻れば砕けた鏡を片付ける小雪の姿が。


「あの、これはどういたしましょう?」


鏡の無い鏡台など一体何の意味があるのか。


「後で他のものに片付けさせましょう。そして新しい鏡台を買わなくては」


私がそう言うと小雪は小さく「そうですね」と頷いてガラスの破片を持って部屋から出て行ってしまった。

そっとベッドを見れば穏やかな表情で寝息を立てる千紗様が見える。

明日の朝、目を覚ましたらハーブティを入れて差し上げよう。

出来れば美味しい焼き菓子も。

そして新しい鏡台も――。

この鏡台を早々に片付けなければ。彼女が目を覚ます前に。

そう決めて彼女を部屋を出る。

奏の部屋は閉じられたままで。

ワインを一人飲みながら何を考えているのか。それが知りたくて、


「奏様」


私は彼の部屋をノックした。
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