重なる身体と歪んだ恋情

千紗

あのまま眠り続けるのかと思ったのに。


「千紗様、おはようございます」


いつもと変わらない如月の声が聞こえてきた。

本当にいつもと変わらなくて、あれは悪夢だったのかと思うくらい普通な朝。

だけど私の手首には包帯が巻かれて、まだ痛む体はあれは夢じゃないと訴える。

だから、


「入って、こないで」


そう言ったのに如月は躊躇することなく部屋のドアを開けた。

そしていつもどおりの朝を。

違うのは、


「新しいハーブティをご用意しております。もうじきマフィンも焼きあがる頃かと」


私の機嫌を取るような誘い。

ううん、如月はいつだって私を子ども扱いしているような気がする。

如月はいいたいことをいうと部屋から出て、代わりに小雪が入ってきた。


「どのお洋服にしましょうか? もう夏ですからこういったのはいかがですか?」


小雪もいつもどおり。

これがみんなの優しさなんだと分かるとシーツを被って丸まってる自分がひどく子供のようで。


「小雪に任せるわ」


そう言って体を起こした。

窓から外を見れば車は無い。

奏さんはもう仕事に出かけられただだろう。

その事実にホッとする自分がいる。

彼に会って、どんな顔をすればいいのか分からない。

ううん、自分がどんな風になるのかが分からない。

彼を罵る? それとも悲鳴を上げてしまうのかしら?

そうしたら彼はどんな態度を取るの?

なにもかも分からないけれど、ハーブティとマフィンは食べたいと思ったの。
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