重なる身体と歪んだ恋情
週末、同じ家の中にいるのも躊躇われて私は仕事だと偽って外に出た。
夏は始まったばかりだというのに照りつける太陽は真夏のようにじりじりと肌を焼く。
歩いていくのは司にこれから行く場所を知られたくないから。
車に乗らない私を司は不思議そうに見つめていたが、「駅でタクシーを捕まえる」と言うと納得したように「お気をつけて」と頭を下げた。
けれど私は駅には向かわず街路樹の下を歩く。
蝉の声が耳障りだ。
そしてここまで来て、この手になにも持っていないことに気がついた。
目の前には病院がある。
見舞いのひとつも持っていないだなんて。
けれど私が花を持ってきたところで花瓶に生けるものも傍には居らず、苦笑しつつも病院の敷地内に足を踏み入れた。
「あ、ら?」
驚くのも無理は無い。
「お久しぶりです。ご気分はいかがですか?」
私一人で桜井の祖母にお見舞いなど、何が起きたのかと思うだろう。
「えぇ、おかげさまで」
そう口にする彼女の身体は小さくなる一方だ。
医師に聞けば歳だし夏の暑さによるものだと答える。
「すみません、手ぶらでお見舞いなど」
「いえ、そんな。来て頂けるだけで」
笑顔を見せながらも、彼女の目は私の後ろにいるはずの人を探す。そして、
「それで、あの、千紗は?」
遠慮がちな彼女の質問に私は苦笑した。
「千紗さんもこの暑さで少し体調を崩されて。でもご心配なさらずに、大したことではありませんから」
そう答えると彼女は「そうですか」と息をついた。
「それにしても千紗は愛されて幸せですこと」
ほほほと上品に笑う祖母。
それに対し私は苦笑いで誤魔化すことしかできない。
「千紗は気付いていないようですが私には分かります」
「え?」
「千紗を愛していなければこんな年老いた老婆の世話までは出来ませんから」
「……」
「本当にありがとうござます」
頭を下げる彼女に私はなにもいえなかった。
夏は始まったばかりだというのに照りつける太陽は真夏のようにじりじりと肌を焼く。
歩いていくのは司にこれから行く場所を知られたくないから。
車に乗らない私を司は不思議そうに見つめていたが、「駅でタクシーを捕まえる」と言うと納得したように「お気をつけて」と頭を下げた。
けれど私は駅には向かわず街路樹の下を歩く。
蝉の声が耳障りだ。
そしてここまで来て、この手になにも持っていないことに気がついた。
目の前には病院がある。
見舞いのひとつも持っていないだなんて。
けれど私が花を持ってきたところで花瓶に生けるものも傍には居らず、苦笑しつつも病院の敷地内に足を踏み入れた。
「あ、ら?」
驚くのも無理は無い。
「お久しぶりです。ご気分はいかがですか?」
私一人で桜井の祖母にお見舞いなど、何が起きたのかと思うだろう。
「えぇ、おかげさまで」
そう口にする彼女の身体は小さくなる一方だ。
医師に聞けば歳だし夏の暑さによるものだと答える。
「すみません、手ぶらでお見舞いなど」
「いえ、そんな。来て頂けるだけで」
笑顔を見せながらも、彼女の目は私の後ろにいるはずの人を探す。そして、
「それで、あの、千紗は?」
遠慮がちな彼女の質問に私は苦笑した。
「千紗さんもこの暑さで少し体調を崩されて。でもご心配なさらずに、大したことではありませんから」
そう答えると彼女は「そうですか」と息をついた。
「それにしても千紗は愛されて幸せですこと」
ほほほと上品に笑う祖母。
それに対し私は苦笑いで誤魔化すことしかできない。
「千紗は気付いていないようですが私には分かります」
「え?」
「千紗を愛していなければこんな年老いた老婆の世話までは出来ませんから」
「……」
「本当にありがとうござます」
頭を下げる彼女に私はなにもいえなかった。