重なる身体と歪んだ恋情
千紗がどう思ってるか、なんて容易に想像がつく。
きっと祖母のことを私が人質にでも取ってると感じてることだろう。
彼女もそう感じてると思っていたのに。
「……いつからお気づきに?」
直球過ぎる私の質問に彼女はふふっと上品な笑いを浮かべて「最初から」と答える。
「千紗を見る目がとてもお優しいから。それに……」
両手を膝の上に重ねて窓の外を見つめる。
「もはや桜井の名など何の意味も無いのにあれだけの支援を千紗が嫁入りするだけでしてくださるなんて」
彼女の見つめる方向には桜井の家がある。
「けれど千里(せんり)さんはダメね。貴方の真意もわからずただ楽をすることばかり考えて」
その桜井の家は私が手を回したときには既に遅く、近いうちに競売にかけられることが決まったらしい。
このことはまだ千紗には伝えていないけれど、目の前の彼女は感づいているのかもしれない。
「貴方のような方に婿養子になってもらいたかったわ」
「私が桜井の婿養子など。とても勤まりません」
丁重にそう言うと彼女は「謙遜を」と上品な笑いを浮かべた。
それからもすこし話をして、病室を後にする。
「ふっ……」
閉まるドアに思わず笑いがこみ上げてくる。
亀の甲より年の功とはよく言ったものだ。
私の気持ちは彼女にはすべてばれていたらしい。
それがなぜか清々しくて、いろんなことが馬鹿馬鹿しくなってきて。
もういいじゃないか。
そんな気持ちにすらなっていた。