重なる身体と歪んだ恋情
けれど『大野芳史』のことは話が別だ。
彼女と私の名前を貶めたツケはしっかりと払っていただこう。
彼が申請するだろう外務省には先手を打って、彼には実績が無いことを強く植え込む。
外交官のほうからの圧力もかからないように手回しを。
銀行にも融資をしないよう根回しをして。
結果は知らない。
知りたいとも思わない。
これだけのことをしても上がって来るようなら本物だろうし、私が潰されるだけ。
それならば甘んじて受けよう。
けれどこのまま潰れるなら、ワインで祝杯でもあげようか?
なんて馬鹿馬鹿しい。
「社長、お電話です。アメリカ通商のミスターラウジーから」
緑川が口にする名前に嫌な予感はしたが、出ないわけにもいかない。
「わかった」
と、立ち上がり電話を手にする。
聞こえてくる英語に多少なりうんざりしながら。
くだらない根回しなどをしていたらどうしてもその晩餐会を断ることが出来なかった。
晩餐会に私が誘うべきは千紗で、それ以外はあり得ないというのに。
けれど行かせたくないと思っている自分がいる。
行けば彼女に嫌な思いをさせるかもしれない、それ以上に彼女は彼を思い出すから。
そんな考えに頭を振って大きく息を吐く。
なんて子供じみた考えなんだ。
決定権は彼女にある。
だから、
「仕事の関係上断ることも出来ませんので出席すますが……、どうされますか?」
夕食を共にしながら彼女に聞いてみた。
ちゃんと『NO』といえる選択肢を与えて。
けれどそれを強いることは私には出来ない。
見たのは彼女の手首の包帯。私の罪の形。
彼女が少し返事を躊躇するように見えたのは彼のことを思い出したのか?
だから、
「無理でしたら一人で行きますので」
強いることが出来ないからといってなんて女々しい台詞だろうか。
そして最終的な彼女の答えは、
「またの機会に……」
『NO』で。その回答に少しばかりホッとする自分を感じた。