重なる身体と歪んだ恋情

司との会話はそれだけ。

そして私がスーツに着替えた頃、


「え? その姿は?」


千紗が現れた。

私のスーツ姿に驚いて。

そして司は退院の手続きに。

残された私たちの間にあるのはぎこちない空気で。


「本当に、大丈夫なのですか?」


先に口を開いたのは彼女のほう。


「えぇ、足は痛いですが歩くくらいは出来ますし、っと」


歩いて見せようとして、すこし躓いてしまった。

すると彼女が駆け寄って、私の手を取る。

包帯に巻かれた右手を。


「熱かった、でしょう?」


そう言って私の右手を頬に当てて、今にも泣きそうな顔を見せる。

きっと、この手の火傷に罪悪感を感じているのだろう。

そんな必要は無いのに。


「大丈夫ですよ」


私の声に彼女は安心などしない。

私のこの傷なんかより、気になるのは彼女の傷で。


「この傷、残りそうですか?」


頬に左手を沿わせると今祖は彼女が「大丈夫です」と答えた。

閉じる目の端に涙が見える。

もしかしたらこの傷は一生残るのかもしれない。

申し訳なく思う気持ちとは裏腹に、それでいいなんて思っている自分もいる。

この傷があれば、彼女は私の元を去らない気がして。

彼女の涙を指先でそっと拭って、

口づけをした。

初めての口付けを。

彼女は拒もうとはせずに、


「奏さん」


私の名前を呼ぶ。そして、


「私を、愛してますか?」


質問を。
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