重なる身体と歪んだ恋情
部屋を出てすぐ、そこにいたのは弥生で。
「下がってもいいと言いましたよ?」
「はい」
そう従順に返事をしながら頭を下げる。
「ですが、千紗様が心配でしたので。何かあってはとここで待たせていただきました」
「そうですか。水も飲ませましたから大事ないでしょう」
そう答えると、また深々と頭を下げて。
「あぁ、これは捨てておいてください」
弥生に渡したのは黒いドレス。
彼女は少し不思議そうな顔をしながら受け取って。
「かしこまりました。それでは、失礼いた」
「部屋に入りますか?」
彼女の声を遮りそういえば、弥生はピタリと動きを止めた。
「千紗様がおいでです。そういった戯れは」
「いつも弥生はつれないね」
「奏様を思ってのことですからご容赦を」
一度くらい、そう思うくらいにはお気に入りなんですけどね。
弥生は一度たりとも私の誘いに乗らない。
私に寄せる好意は見え見えなのに。
まあ一度寝てしまえばこの屋敷から追い出されることを知ってるからと言うのもあるのだろう。
それに彼女は優秀な女中。
こんな簡単に失うのは惜しいというもの。
「冗談ですよ。もう呼ぶことはないでしょうから下がりなさい」
だからそう言うと、
「失礼いたしました。それでは」
弥生はまた深々と頭を下げて私の閉めるドアの音を待っていた。