重なる身体と歪んだ恋情
服を身につけ寝室から出ると、ソファに座り新聞を見ている奏さんがいた。

そして私の姿を見て薄く笑う。


「用意はよろしいですか? それでは下に降りましょう」


そう言ってソファの肘あてに手を置いてゆっくりと立ち上がる。

まだ足が痛いのだと思う。

だって彼の顔が僅かに歪んだから。

そんなのは当然で、骨に日々が入ってるのだから何日か経てば治るというものではない。

医者様も完治するまでは3ヶ月ほどかかるとおっしゃっていたし。

だから、


「……どうぞ」


私は彼に手を差し出した。

その私の行動に彼は一瞬動きを止めて、それからゆっくりと私を見上げた。

驚いた表情で。


「杖の代わりにはならないとは思いますが、何もないよりはマシかと」


そう言うと彼は「ありがとう」と言って、私の手を取った。

包帯を巻いた手を。


「そうですね、今日にでも杖を手配しましょう。そうすれば幾分動くことも容易になるでしょうから」


そんな彼の声を聞きながらゆっくりと階段を下りる。

……私の手は借りたくないということかしら。

確かに、彼と一緒によろめいてしまう私では杖以下だから仕方ないのだけど。
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