重なる身体と歪んだ恋情
仕方ない。

仕方のないことなのよ。

自分に何度もそう言い聞かせた。


「如月は、知っていたの?」

「なんでございましょう?」


お祖母様のお見舞いに行く途中、如月に聞いてみた。


「兄様のこと」


そう聞くと、如月は躊躇することなく「はい」と答えた。


「ですがお会いになるのは無理かと」


そして私の考えを先回りした如月の言葉には「そう」とだけ答えておいた。


病院に着き、お祖母様の顔を見る。

夏だというのに冷たい指先。

顔色だって優れない。


「もっと食べないと元気になりませんわ」

「暑いからかしら? どうしても食が進まなくて」


こんなお祖母様に兄様のことを話すことなんて出来ない。


「そういえば、今はどうなさってるの?」

「え?」

「おうちが焼けてしまったのでしょう? 大丈夫なの?」


こんな状態なのに、私の方を心配してくださるお祖母様にはいつまで立っても頭が上がらない。


「えぇ。今はホテルにいます。使用人も全員お暇は出されたようで」

「まぁ! ホテルだなんて! ご不自由でしょう?」


そう言ってくださるお祖母様に私は苦笑した。

あまり、変わらない気がするから。

すべて周りのことはやってもらっている。

それが使用人かホテルの従業員か、それだけの違いだ。

でも、温室がないのは、気軽にお茶が楽しめないのはやはり不自由なのだけど。


「そうだわ、桜井の家にいらしてもらっては?」

「え?」

「それがいいわ! 古い家だけど部屋数だけはあるもの。スズが手入れもしてくれているのでしょう? 誰もいないよりあの家だって、貴方のご両親もきっと喜ぶわ」

「……お祖母様」


嬉しそうにそう提案してくださるお祖母様に、私は断る言葉を知らない。

こんなとき、私が相談できるのは如月だけ。


「そう、思う?」


遠慮がちに聞く私に如月は腕を組んで「そうですね……」と言葉を発した。


「奏様に言ってみられては?」

「わ、たしが?」

「貴方以外に誰が提案できるのですか?」


だから、それを如月にして欲しかったのに。


「私から聞いたとなればそれはそれで奏様の機嫌を損ねるというものです」

「そう、かしら」


彼は私からの声になんて耳を傾けてはくれないと思うけど。

だからこと如月にと思ったのに。


「はい。絶対に拗ねます」

「……」

「ですから必ず千紗様からお伝えくださいますよう」


奏さんが、拗ねる?

そんな姿は全く想像できなくて、でも如月が言ってくれないことに私は小さく溜め息をついた。
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