重なる身体と歪んだ恋情
その日の夜、奏さんは私が思った以上に早い時間にホテルまで帰っていらした。


「怪我を気遣ってかあまり仕事をさせてくれないんですよ」


彼の帰りを多少なり驚くと、彼はそう言って苦笑した。

いつ帰ってくるかは知らなかったので夕食はお部屋に。

だから今日もふたりで向き合ってご飯を食べる。

そうね、こんな毎日が続くことを考えたら桜井の家にという提案はいいのかもしれない。

私にとっても、彼にとっても――。


「あの、奏さん。これからのことなのですが……」

「そうですね。話しておかないといけませんね。お兄様の方はもう医師の方と話をつけました。診断書も手配済みですので――」

「あ、いえ、そちらのことではなくて」

「はい?」


確かに相続のことも大切なのだけど。


「これから住む、家のことです」


こちらも大切だから。

私はお祖母様に桜井の家に住むよう提案されたことを話した。


「誰もいないより誰かが居たほうが家も喜ぶといいますし……」

「いいですよ」


すると彼はあっさりとそう言った。


「家は立て直させていますが時間もかかりますし、いつまでもホテル暮らしでは貴方も息が詰まるでしょう。ですから如月に仮の住まいを探させては手配他のですが、あなたにとってはその方法が一番いいかもしれませんね」

「……すみません」

「何を謝るのですか? こちらとしてはお礼を述べたいくらいの申し出です」


その言葉に嫌味が含まれているのかそうでないのか、私には計りかねない。

けれどそう言ってくれるのなら――。


「では、そのようにお願いします」


私は彼の言葉をそのまま受け取ることにした。
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