重なる身体と歪んだ恋情
夜は長い。

彼はワインを頼み本を読む。

その傍らで、私も本を開いた。

会話のない空間はどこか息苦しい。


「貴方も飲みますか?」


差し出されるワインはまるで血のように赤い。

それに私が首を振ると彼はフッと笑って、グラスのワインを飲み干した。


「今日は病院に?」

「はい。お祖母様のことが心配なのですが逆に心配されてしまいました」


私の声に彼は本を置き笑みを浮かべる。


「私も心配されてばかりです。緑川には早く帰れといわれるし、如月にも――」

「なんですか?」


途中で言葉を止めるからそう聞くと、彼は少し困ったように笑った。


「あなたのことを心配するようにと言われました」

「え?」

「でも、一人の方が落ち着くのであればそのようにします」

「……」


彼も、この空間に息をすることが難しいのかもれない。

そう思ったけれど、


「そんなことは、ないです」


誰かにいて欲しいと思うのも事実。

彼の手が私に伸びてくる。


「本当に?」


その手を受け入れて、私は目を閉じた。



< 368 / 396 >

この作品をシェア

pagetop