重なる身体と歪んだ恋情
自殺?
一瞬では出来ない言葉に、どう反応していいか分からなかった。
そんな私の口からこぼれたのは、
「どう、して……?」
彼を責めるような言葉だった。
その私に彼は重たい口を開く。
「彼は、阿片中毒でした」
阿片?
聞き慣れない言葉ばかりで整理が追いつかない。
「それでも期日が迫っていたので、医師立会いの下書類に捺印をしていただいたのですが……」
その夜、兄は手首を切ったのだという。
窓ガラスを割り、その破片で。
命には別状はないとの言葉に、息を漏らしソファに体を沈める。
「お知らせするかどうするか、迷いました」
その声にゆっくりと顔を上げると、奏さんは本当に悲しそうな顔を見せた。
「この先、こんなことがまた起こるかもしれません」
だから教えたのだと彼は言った。
手首を切ったのは、これで3回目だということも教えてくれた。
◇
『肉親に会うことが出来るなら、違う反応もあるやも知れません』
そんな医師のことづけを聞き、私と奏さん、そして如月で病院に行くことになった。
病院は東京からは遠く離れた山奥で、車で3時間もかかった。
借金から逃げたとしても良くここまで……。
そう思えるほどの山奥。
そこに木造の建物が見えてきた。
精神を病んだ患者や、綺麗な空気の中でしか生きられない患者がそこにいる。
彼をここに入れたのは緑川だと聞いた。
桜井家の当主が阿片中毒で入院など、醜聞以外何物でもないから。
建物に入ると病院特有のツンとした匂いがした。
「こちらです」
無表情な看護婦の後について廊下を歩く。
そしてドアに会ったつっかえ棒は取られ、ゆっくりと明けられた。
窓には鉄格子、そこから流れてくる風を兄は目を細めうけていた。
「兄様……」
そう呼ぶのはどれくらいぶりだろう。
桐生家に嫁いで4ヶ月。
けれど兄のことは婚姻が決まってからずっと避けていたから。
私の声にゆっくりと振り向く兄様。
そして、
「――ひっ!! た、助けてくれっ!!」
いきなり悲鳴をあげ、恐怖に顔を引き攣らせながら部屋の隅に丸くなってしまった。
「にい――?」
「大丈夫ですよ、ほら、貴女の妹さんですよ!」
「来るなっ! 来るなぁ!!」
まるで私を鬼か獣かを見るような目で怯え逃げ惑う。
頭を抱える腕は細く骨ばって、その肌は乾燥しきってまるで老人のよう。
ボサボサの髪を掻き毟りながら、兄は私がその部屋にいる間ずっと悲鳴を上げていた。
一瞬では出来ない言葉に、どう反応していいか分からなかった。
そんな私の口からこぼれたのは、
「どう、して……?」
彼を責めるような言葉だった。
その私に彼は重たい口を開く。
「彼は、阿片中毒でした」
阿片?
聞き慣れない言葉ばかりで整理が追いつかない。
「それでも期日が迫っていたので、医師立会いの下書類に捺印をしていただいたのですが……」
その夜、兄は手首を切ったのだという。
窓ガラスを割り、その破片で。
命には別状はないとの言葉に、息を漏らしソファに体を沈める。
「お知らせするかどうするか、迷いました」
その声にゆっくりと顔を上げると、奏さんは本当に悲しそうな顔を見せた。
「この先、こんなことがまた起こるかもしれません」
だから教えたのだと彼は言った。
手首を切ったのは、これで3回目だということも教えてくれた。
◇
『肉親に会うことが出来るなら、違う反応もあるやも知れません』
そんな医師のことづけを聞き、私と奏さん、そして如月で病院に行くことになった。
病院は東京からは遠く離れた山奥で、車で3時間もかかった。
借金から逃げたとしても良くここまで……。
そう思えるほどの山奥。
そこに木造の建物が見えてきた。
精神を病んだ患者や、綺麗な空気の中でしか生きられない患者がそこにいる。
彼をここに入れたのは緑川だと聞いた。
桜井家の当主が阿片中毒で入院など、醜聞以外何物でもないから。
建物に入ると病院特有のツンとした匂いがした。
「こちらです」
無表情な看護婦の後について廊下を歩く。
そしてドアに会ったつっかえ棒は取られ、ゆっくりと明けられた。
窓には鉄格子、そこから流れてくる風を兄は目を細めうけていた。
「兄様……」
そう呼ぶのはどれくらいぶりだろう。
桐生家に嫁いで4ヶ月。
けれど兄のことは婚姻が決まってからずっと避けていたから。
私の声にゆっくりと振り向く兄様。
そして、
「――ひっ!! た、助けてくれっ!!」
いきなり悲鳴をあげ、恐怖に顔を引き攣らせながら部屋の隅に丸くなってしまった。
「にい――?」
「大丈夫ですよ、ほら、貴女の妹さんですよ!」
「来るなっ! 来るなぁ!!」
まるで私を鬼か獣かを見るような目で怯え逃げ惑う。
頭を抱える腕は細く骨ばって、その肌は乾燥しきってまるで老人のよう。
ボサボサの髪を掻き毟りながら、兄は私がその部屋にいる間ずっと悲鳴を上げていた。