重なる身体と歪んだ恋情
「もうじき、式場です。千紗様」
「そう」
彼が来ない代わりに、この如月という男は何度もうちを訪ねて来た。
勿論、婚姻の打ち合わせの為。
今日着ている私のドレスを届けたのも彼だった。
彼は、「このドレスは奏様が千紗様のためにお選びになりました」と言っていたけれど多分嘘。
だって彼は私を知らないのだから、私に似合うドレスなんて選びようがないもの。
けれど、一応「ありがとうございますとお伝えください」と返しておいた。
「千紗様、到着しました」
ガチャリと重苦しいドアが開けられる。
「ご親族の方も後々来られますので今しばらくお待ちください」
車から降りると、真っ白な教会が大きな十字架を背負って建っていた。
けれど、
「それで、桐生様は?」
「……申し訳ございません。お仕事が混み合っておりまして。式には必ず間に合いますのでご安心を」
私の夫となる彼の姿はどこにもなくて、如月の台詞とは別の意味で安心してしまった。