重なる身体と歪んだ恋情
「湯気が立ち込めてましたからね。はっきりとは見えませんでしたよ?」
「……」
確かに。
湯気は立ち込めてはいたけれど。
「まぁ、多少肌には触れましたけど」
「なっ!」
そんな台詞に思わず声を上げると「仕方ないでしょう?」と笑われて。
「目の前で溺れさせるわけにも行きませんし、誰かを呼ぶなんてこともねぇ」
「……」
呼んだところで使用人で、そうなると私はその使用人にまで裸をさらすことになるわけで……。
「あぁ、でも服は弥生に着せてもらいました。脱衣室には湯気も無いもので」
弥生。
確か彼つきの使用人の名前だったはず。
聞かされる事実に少しホッとして彼を見上げた。
「安心なさいましたか?」
「はぁ……」
気が抜けて、そう口から出て行った台詞を押し留めようと両手で口を押さえたけれど無理な話で。
そんな私を見て奏さんはクスリと笑った。
「ですから少ししか見ていませんよ」
なんて繰り返す台詞は意地悪以外何ものでもない。
「もう、いいですから」
「その時が来たらしっかりと見させていただきますけど」
「はい!?」
声を上げる私にやはりクスクスと笑う彼。
「本気ですよ?」
「そっ、そこは冗談ですって答えるところでしょう!?」
「だって本気ですから」
「――っ」
顔を赤くする私に彼は笑うだけ。
その笑顔に錯覚しそうになる。