重なる身体と歪んだ恋情
本当にこの笑顔の通り優しい人なんじゃないかって。
もしかしたら、私は愛されてるんじゃないかって――。
「なので次からは小雪にでも言って入ることをお勧めします」
「……分かりました」
彼の言うとおり。
小雪に言っておけば彼と一緒にお風呂なんてことも無いわけで。
「溺れそうになっても小雪が気が付くでしょうし」
「溺れませんっ!」
「彼女がクビになることも無いですしね」
「えっ?」
驚いて声を上げるのに、彼の笑顔は崩れることなく涼しいままで。
「そうでしょう? 主人の異変に気づかず倒れさせてしまうなんて使用人失格です。昨夜は私がいたおかげで事なきを得ましたが」
違う。
あなたが居たからあんなことになったわけで。
ううん、そうじゃなくて小雪がクビ?
「次からは色々と気をつけてください」
「……はい」
急に、彼の笑顔が冷たく怖いものに思えてしまった。
「今日は買い物でしたね。如月を連れて行くといいですよ。横浜に輸入家具の店がありますからそこへどうぞ。そうそう、それから――」
そう言って彼は私の姿を上から眺める。
「ドレスも何着か作るといい。店は如月が知っていますからお気に召すだけ選ぶといいでしょう」
私の着物姿が気に入らないらしい。
これはお祖母様が作ってくださった大島なのに。
彼はそれだけ言うと、
「それでは気に入るものがあるといいですね」
と言い残して私の部屋から出て行った。