重なる身体と歪んだ恋情
「こちらへ」と通されたのは教会脇にある小さな部屋。
そこには窓とテーブルに椅子しかなくて。
「狭い場所ですかご勘弁を。式が始まるまでのご辛抱ですから」
だから仕方なくそこにある椅子に腰掛けた。
なんだかドレスが汚れてしまいそうだったけど構わない。
寧ろ、汚れて式なんて無くなってしまったっていい。
そう私が念じたところで現状が変わることなんてあり得ないけど。
しばらくすると、部屋の外が騒々しくなってきた。
多分、お兄様たちが着いたのだろう。
今日の式はごく身内だけ。
桐生様のお仕事が忙しくあまり時間がとれないとか、うちとしても政略結婚とか変な噂を立てられたくないとか、色々思惑があったみたいで。
でも、子供の私には何も知らされてない。
違うわね。
嫁にやる娘だからどうでもいいのだわ。
そして、桐生家にしたって欲しいのは元公家の血が家に入ると言う事実が欲しいだけで、わたしという人間が欲しいわけではない。
結婚式自体にお金も時間もかけるだけ無駄なのだわ。
見上げると小さな窓から真っ青な空がある。
別に自分を悲観するわけではないのだけど……。
「泣いたら、すっきりするのかしら」
雲ひとつ無い空を眺めていたら無性に泣きたくなった。