重なる身体と歪んだ恋情
「なんでもない、とは?」
「あ、えと、そうね……」
怪訝そうな如月の顔。
あぁ、私ったら。
「もう別に欲しいものなんて」
「若い女性の好みは分かりませんが、横浜(ここ)にはいろんなものが運ばれてきます。勿論、普段着るための洋服も」
「……」
「どういったものがお好みですか?」
そう、聞かれても困ってしまう。
女学校に通うときは矢絣に袴、そしてブーツが当たり前。
家に帰ればほとんど着物で。
確かに少しばかりのドレスは持ってたけれど……。
「もう少し、歩いてみますか?」
そう言われて、
「……そうね」
私はそう答えてまた歩き出した。
だって、あの家の中に籠もっているより、
「あ、あのドレス素敵ね」
「試してみては?」
こっちの方が遥かに、
「そうするわ!」
楽しいんだもの。