重なる身体と歪んだ恋情

教会のドアがゆっくりと開かれる。

中に居るのは私の兄とお祖母様、そして数人の使用人と近しい親戚だけ。

桐生家のほうも同じような感じで全員を合わせても30人足らず。

なんて小さな結婚式。

神父様はただの日本人。


「健やかなる時も病める時も――」


彼は本当に神の使いなのかしら? でも彼は、


「誓いますか?」

「――はい」


そう言った私の誓いに穏やかな笑みを浮かべるだけ。

この誓いが嘘か本心かも見極められないなんて、きっと偽者だわ。


「それでは誓いのキスを」


向かい合って彼の手が私のベールをそっと剥いでいく。

くっきりとした視界で初めて彼の姿を見た。

30に近いと聞いたけれどそれよりは若く見えるかもしれない。

すっと伸びた鼻筋、切れ長な瞳、整えられた眉。

薄い唇もすべて完璧にそろえられてる。

こんな出会い方ではなかったら素直に好意をもてたかもしれない。

ゆっくりと近づく彼の顔に、私も目を閉じる。

そして、キス。


「……」


彼のキスは唇ではなく私の額に落ちてきた。

どういう意味なのかしら?

分からないけれど、少しホッとして唇から息が漏れてしまった。
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