重なる身体と歪んだ恋情

「はぁ……」


お湯に浸かって思わず口から出てしまうのは深いため息。

『お背を流します』なんて真顔で言う小雪の台詞は丁重に断って。

私は今、一人でお湯に浸かってる。

本当にお金持ちって。

お風呂に入るだけでこんなに気を遣うなんて信じられない。

今日は表に小雪が居るはず。

だから先日のようなことはあり得ないのだけど。

なんとなく気になって何度もガラス戸のほうを確認してしまう。



けれどやっぱりそんな事は無くて。


「千紗様、湯上りに何か召し上がりますか?」


着替えて外にでれば小雪がすぐにそう口にした。


「お水を」


そう答えると小雪は少し不思議そうに顔を上げて、それからすぐに「かしこまりました」と頭を下げた。



部屋で髪を梳いているとノックされるドア。

「はい」と答える私の声に「失礼します」と小雪が現れる。

そしてコトリと置かれるコップには水。


「レモン果汁を少々入れてあります。お気に召すといいのですが」


そんな心遣いに「ありがとう」と言って、



「もう寝るからさがっていいわ」


小雪にそう告げた。
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