重なる身体と歪んだ恋情

それから小雪に手伝ってもらいながら支度して。

1階に下りたときには、


「どうぞ」

「……」


ダイニングテーブルに奏さんはいらっしゃらなかった。

当然、よね。

時計を見れば8時30分を少し回った頃。

完全に妻失格だわ。


「奏様はお帰りになりませんでした」

「えっ?」


私の考えを読み取れるのか、紅茶を注ぎながら如月がそう教える。


「少し仕事が立て込んでまして。昨夜は事務所にお泊りとの連絡をいただきましたので」

「……そう」


そんな報告に少しホッとして如月の入れてくれた紅茶を口に運ぶ。


「あら?」

「お気に召しましたか? イギリスより取り寄せたハーブなるもののお茶になります」

「ハーブ……」


聞いたことの無い名前。

そして口に入れたこのお茶も初めての味。


「色々と効能があるそうで。うちでも育てようかと奏様が」

「育てる? この家にはそんな場所があるの?」

「はい。ではこの後そこへご案内いたしましょう」

「……そう、ね」


この屋敷にはまだ私の知らない場所があるらしい。
< 83 / 396 >

この作品をシェア

pagetop