重なる身体と歪んだ恋情

「苺はお嫌いですか?」

「い、いえ」


嫌いどころか、好き。

果物は全般好き。

だけど、この狭い空間に二人だけ残されて……。

私は重たい本を持ったまま動けないでいた。


「でしたらこちらへどうぞ」


すっとひかれて重厚な椅子。

だから仕方なくその椅子に座って本は膝の上に置いて。


「はい、あーん」

「は? んっ!」


意味の分からない言葉に顔を上げるといきなり口の中へ苺を入れられてしまった。

甘いけれど酸っぱい一義の果汁が口の中一杯に広がる。


「美味しいですか?」


クスクス笑う奏さんの声に少し咽ていると、


「お待たせいたしました」


と弥生が戻ってきてくれた。


「あぁ、ありがとう。ここに置いたら下がっていいですよ」


えっ?

彼のそんな台詞に驚いて顔を上げたのに、弥生は机の上にボトルとグラスをふたつ置いて、


「畏まりました」


と部屋から出て行く。

重たいドアが音もなく閉まって、


「飲みますか?」


奏さんの声だけが私の耳に届いた。
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