紫水晶の森のメイミールアン

第5話 穏やかな秋の日の午後

 ――10年前、王宮図書館の片隅で見付けた小さなかわいい女の子。髪の毛も乱れて服もヨレヨレで、一目で異国の娘だと分かる髪の色。見窄らしい格好をしているが、よくよく見るととても気品に溢れた綺麗な顔立ちで愛くるしい。その当時、人攫いが身形の綺麗な子を攫って売り飛ばす事件も多く、もしかしたら攫われてここまで連れて来られて逃げ出したのかなとも感じた。ならば、尚さら保護してやらねば……。

 そんな人の心配をよそに、こんな幼い子が読む本ではない大人が読みそうな専門書を膝の上に広げて、無邪気にとても気持ち良さそうに眠っている。まるでひだまりで気持ちよさそうに居眠りする小猫みたいだ。羽織っていたビロードのマントを外して、そっとこの可愛い眠り猫に掛けた。
 あの眠り猫が目覚めたら、初めて見る目の色をしていた。あれは……。宝石のアメジストに似ている。風にフワフワと揺れる紫色の花の様にも見える。何と言う名前の花だろう?名前を聞いたら、答えてはくれなかった。

 ――だから私は、この花に”アリッサ・ロブラリア”と名付けた。

 だが、まさか……。リリカルド王国の王女だったとは……。そして我が父が後宮から追い出した、私の婚約者だったとは……。ベールを被って顔もはっきり分からない、10歳も年下の娘など全く興味も無かったし、後宮でそれなりに悠々自適に暮らしているものとばかり思っていた。

 彼女の真実の名前は”メイミールアン・リリカルド・クィンアルロザス”父の命で王女の称号を剥奪され、最下位の側妃と呼ばれ、庶民からも蔑まれる程不名誉な貴族最下位の称号”メイミールアン・ロストナルフィー” と名付けられ見捨てられた、かわいそうな王女。
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