紫水晶の森のメイミールアン

 ―― コン……コンコン

「はーい。どなた?」

「ルアン私だが」

「どうぞお入り下さい」

 石の家の裏手のこんもりとした森の木々が色とりどりに色付き始めた穏やかな秋の日の午後、いつも突然ひょっこり尋ねてくるエメリオス。
 カチャリと木戸を開けると、真っ白の粉だらけになって、焼き菓子やパン作りに勤しんでいる、とても元大国の王女とは思えない女性の姿があった。

「お出迎えもせず、申し訳ありません。お尋ねになる事を事前にお伝え下されば、こんな姿をお見せする事など無かったのですが……」

「嫌、構わぬ。いつも勝手気ままに尋ねてくる私が悪いのだ。私に構わず続けてくれ」
 そう言いながら、メイミールアンを見てクスリと笑うエメリオス。

「なにか?可笑しい事でもありましたか?」

「いや、なに。この家で初めて会った時には、灰と煤だらけで真っ黒だったが、今日は真っ白で、色々な姿を見せてくれる忙しい方だなと思ってな」

「それをおっしゃらないで下さい。お恥ずかしいです。あのような姿は滅多に人に見せた事はありませんので。いつも突然にお尋ねになるから困ってしまいます……」

「それはすまぬな」

「いえ……責めてる訳ではありません。お忙しい身、僅かに出来た時間の合間にお尋ねくださってる事は分かっておりますので」

「それはありがたい」 

 お互い笑いあう和やかな一時。あの再会の日から、こうして度々エメリオスが尋ねてくるようになった。
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