紫水晶の森のメイミールアン
　その頃ルアンは、薪のキッチンストーブの大掃除をしていた。

　煤と灰まみれになってしまうので、汚れてもいい捨てても構わないような擦り切れた毛織りのチュニックドレスに、穴だらけで薄汚れたエプロンドレスをつけて、頭は頭巾をかぶってはいるものの、灰をかぶって髪の毛もゴワゴワで、いつも綺麗に豊かなゆるいウェーブのかかった白金色の髪の毛を後ろにアップにまとめているが、髪の毛も乱れて、顔は煤で薄汚れて、とても人様に見せられる姿ではない。

　ルアンは、庶民の女性が着る普段着のチュニックドレスやエプロンドレス、男物のシャツを縫ったり、パンや焼き菓子を焼いて、すぐ近くの菜園の宮廷労働者達に買って貰ったり、代金の代わりに、薪や食材を分けてもらったり、時々城下の商人街に行っては馴染みの店に納めて、何とか生計を立ててきた。

　いつもフル稼働のキッチンストーブは、週一回はこうやって綺麗に掃除をするようにしていた。

　――そんな人に会いたくない時に、表の木戸を叩く音が聞えた

「誰かしら？この時間、菜園の人達は仕事をしているはずなのだけれど……」

「誰か居ないのか？」

　男性の声で、また木戸を叩く音が聞えた。
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表紙・目次

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