Sweet love‡Bitter kiss 【短編】
《…もしもし。》
5回目のコールの後、遠慮がちな声が聞こえた。
別れた今でも…、俺を虜にして病まない紗由の声。
『今平気…?』
小さく咳ばらいをして、体を傾けた。
でも…、俺のそんな行動を梨華子さんが許してくれる筈もなく――。
制服の袖に力が入って、元の位置に戻された。
『あの…さ。
ずっと話したかった事があって……
俺…』
「ゆんちゃん!!」
受話器越しでも聞こえる位に…、声が響いた。
驚いて向いた先には……
悪戯な笑顔を覗かせる梨華子さんが居て。
何でこのタイミングで、そのあだ名を呼んだのか…。
正直頭が回らなかった。
《誰…?何、どういう事?》
紗由の声が1トーン落ちて、怒りに変わっていくのがわかった。
『ちょっ…、またかけ直す!』
急いで電話を切って、梨華子さんを睨んだ。
『どういうつもり?
梨華子さんが自分の前で掛けて欲しかったのって、こういう事がしたかったんスか?』
「あたしの勘は当たるからね!」
とんちんかんな事を言い出すこの人は…。
頭がイカレテるんだろうか。
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