さいごのまたね
春
私が帰る坂道には桜の木がある。
春、満開の花びらが空からこぼれ落ちたように
、
ひらひら。ひらひら。
まだ少しだけ肌寒い道のりを私と「彼」は歩いていく。
生まれも育ちも全く違う私たちは、今年から通う高校で出会った。
出会ったとは違う、ただ私たちは帰る道が同じというだけだった。
毎日同じ時間、同じように坂道を歩いていく。
彼は少し後ろ。私は前に、
話もしない、話しかけもしない。
けれどなんとなく、この時間が心地よくて。合わない日があるとちょっぴり寂しかったり。
(…あ、)
坂道が終わると、彼は私の家とは逆の方向に曲がり消えてしまう。
彼は右へ、私は左へ。
私は心の中で(バイバイ)と呟く。
ゆっくりと速度を落として彼の歩幅に合わせる。
坂道の終わりには私と彼は同じ位置に、
そして左右に別れた後、彼の背中を見て帰るのだ。
…いつになったら声をかけられるんだろう。
彼が曲がったあと、小さくため息をついて立ち止まった。
「…な」
「え?」
微かに聞こえた音に振り返ると、いつも足音と背中しか見れない彼が私を見つめて立っていた。
「またな」
照れくさそうに呟いた彼は走り出して消えてしまった。