ピアスに恋した少女
居場所
卒業式がやって来た。
いつもより少し目覚めたあたし。
今日でこの制服を着るのも最後なのか……。
なんて思いながら、ブレザーに腕を通す。
ストレートの黒髪を、いつもより念入りにブローしてみたり。
内緒でこっそりビューラーでまつ毛を上げてみたり。
卒業式ということで、少し気合いを入れて身支度を済ませた。
階段を降りると、なんだかお母さんがバタバタと廊下を駆ける音がした。
なんだろう、と思っていると、また同じ廊下を通るお母さん。
手には大量のファイルや資料、そして携帯電話が握られていた。
「お母さん?」
「あ、もしもし、お疲れ様ですー。はい、今日の会議の資料ですよね、それなら……」
やっとテーブルについて座ったと思いきや、また慌ただしく携帯電話を耳にあてていた。
どうやら朝から仕事の電話らしい。
デザイナーとして活躍するお母さんは、もう40歳過ぎ。
そんなお母さんが務める会社は、そこそこ有名なブランド。
たまにお母さんがデザインした服を見かけることもあるくらいだ。
あたしが生まれる前からしていたデザイナーの仕事。
普段から服が大好きなお母さんの、唯一のやりがいだと言っていた。